東京高等裁判所 昭和28年(く)18号 決定
被告人 寺尾弘
〔抄 録〕
記録によれば、抗告人本人がさきに原裁判所に申し立てた再審請求の要旨は、「請求人は、前記傷害被告事件について第一審において昭和二五年八月三一日懲役十月の実刑に処せられ、その控訴、上告も棄却され、右第一審の裁判が確定したが、該被告事件の被害者甲の代理人弁護士乙との間に昭和二五年五月一八日被害者に対し金四万四千円の慰藉料兼治療費を支払い、円満に示談が成立したので、このことは当然第一審において刑の量定上審理の対照資料となるべきものであつて、該事実が立証されれば、当然刑の執行猶予の言渡があるべきものであつた。しかるに、その示談書は、上告審に至つて初めて被告人の上申書に附属して現れたに過ぎず、事実の取調も行われなかつたので、遂に該事件の裁判における量刑上の資料とはならなかつた。従つて、これは、刑事訴訟法第四百三十五条第六号に規定する原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したときに該当するから、再審の請求に及んだ」と言うのであるが、原裁判所は、右法条に規定する「原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき」とは、原判決が認定した犯罪より法定刑の軽い他の犯罪を認めるべき場合を言い、同一犯罪について原判決が科した刑より軽い刑をもつて処断すべき情状がある場合を意味しないのであるから、所論のような事理は、再審を請求し得る場合に該当しないとして右請求を棄却したものであることが明らかである。本件抗告は、かかる原裁判所の見解を争い、右法条の規定は、法理上からも、またそれが確定判決で有罪の言渡を受けた者の利益のために設けられたものである法の精神に鑑みるも、原決定の解するように限局して解釈すべきものではなく、同一犯罪について原判決が科した刑より軽い刑をもつて処断すべき場合をも包含すると解すべき旨主張するのであるが、右法条は、これを原決定の解したとおりに解釈すべきことはその法文上明らかであるから、本件抗告は、その主張自体において理由のないことが明白である。
註 本判旨は新刑訴法第四三五条第六号については新しいが、同条号と全く同辞句の旧刑訴法第四八五条第六号については既に大審院以来多く同趣旨判例あり。